京阪電鉄は京阪本線など5線の列車運行管理システムを、自立分散式から中央集約式に切り換えたことを、業界誌で明らかにしました。
自律分散式の一部機能であった旅客案内機能を切り離しのほか、ダイヤ乱れにおける運転整理をサポートする機能に関する記述もあります(詳細後述)。
以前まで使用されていたシステムは自律分散式列車運行管理システム(Autonomous DEcentralized Traffic Control System、以下、ADEC)で、1987年に導入、2004~07年に順次リプレース、08年に中之島線の追加などの改修が行われてきました。
今回、ADEC関連機器の老朽化や指令所の移転などに伴い、運行管理システムが更新したと説明しています。
導入されたシステムは中央集中式列車運行管理システム(Programmed Traffic Contral、以下PTC)で、中央装置のみがダイヤ情報を持ち、制御駅には各種情報授受を行うのみの装置(駅I/F装置)が設置されています。
前述の通り、旅客案内機能を切り離し、新たに旅客案内システム(Passenger Information Control、以下PIC)が構築されました。
本切換日に関する記述はありませんが、3月1日に一部駅を除いて放送内容が変更されているようです(参照:Xポスト1、その2、その3)。
主な機能などは次の通りです。
〈PTCとPICのシステム構成〉
※PTCを構成する主な装置を次の通りです。
・中央処理装置
・バックアップ装置(今回初めて導入)
・マンマシン装置
・モニタ端末、駅端末
・運行表示板および表示制御装置
・運行管理サーバ
・情報配信サーバ
・保守端末
・駅I/F装置(今回初めて導入)
・訓練装置(PICの訓練装置を接続)
※PICを構成する主な装置は次の通りです。
・旅客案内中央制御装置(今回初めて導入)
・放送配信装置(今回初めて導入)
・訓練装置(PTCの訓練装置を接続)
〈PTCの特徴的な装置〉
PTCでは、列車運行の制御や管理を担うさまざまな装置が中核的な役割を果たしています。最も中心的な装置である中央処理装置(以下、CPU)は二重系となっています。この装置は駅とのインターフェース装置やバックアップ装置などとLANで接続され、指令所と現場をリアルタイムで結びます。
バックアップ装置(以下、BCU)は、万が一CPUの両系が停止した場合に限定的な機能を引き継ぐものです。列車の現在位置や信号の状況、進路制御の手動操作が可能となっており、システム全体の完全停止を防ぎます。ただし、BCUは一重系でダイヤ情報を持たないため、BCU使用中は自動進路制御や列車番号表示といった一部機能は利用できなくなります。
また、外部からのサイバー攻撃への備えとして、一方向中継装置が新たに導入されました。これは信号を一方向にしか流さない物理的な構造を用いており、システム外部からの不正アクセスを遮断する役割を担います。
マンマシン装置は、運転指令員がシステムと操作・対話するためのインターフェースであり、列車運行の判断・操作に必要な情報を提供します。
特筆したい機能に、打切、延長、中抜きがあります。
打切、延長の機能は指定した区間の運行を取り消す、もしくは本来の行先駅より先の指定した駅まで延長し運行させる機能に、PTCでは中抜き機能が追加さました。
中抜き機能とは、車両故障などで車両交換を行う際に、運行を行路の途中駅で打ち切り、臨時で用意した別の列車にダイヤ情報および列車番号を継承させて運行継続させる機能です。
例えば、アルファベット順でA駅からE駅までの5駅がある場合、B1000Zが車両故障によりC駅で運行を打ち切り、D駅からB1000Z1としてB1000Zの情報を引き継ぎ、運行を継続することを可能としています。
次に、自動段落とし機能というものも実装されています。
人身事故や地震などによる突発的な運行停止が発生した場合、運転再開時刻に応じたダイヤの変更の際に、運休時間帯に該当する列車の運休処理や、終端駅に到着した列車の次列車への自動的な繋ぎ変えを実行します。繋ぎ変えは準急系や普通系といった同系統の列車同士で行われ、列車の本数に過不足がある場合には、その調整も指令員によって自動的に行われます。
また、折返し運転機能では、あらかじめ設定された折返し駅と使用番線のパターンに基づき、列車を折り返して再度運行に充てることができます。こちらも、列車種別が同じもので繋ぎ変えが行われるほか、列車本数の調整も自動的に実行されます。
そして、計画運休機能は、あらかじめ運転再開時のダイヤを用意しておくことで、あらかじめ想定された再開時間に対応するダイヤを選択し、スムーズに運転を再開できるようにするものです。
さらに、線路閉鎖や保守用車との併用が必要な場合には、指令所からソフト的な手続きで線閉を行うことができ、保守作業との調整も効率的に行えるようになっています。
〈PICの特徴的な機能〉
PICは、PTCと連携し、各駅の案内表示や自動放送を制御します。中核となる旅客案内中央制御装置は、PTCから受信したダイヤ情報をもとに各駅向けの案内情報を生成したり、列車の位置や出発順などをリアルタイムで追跡します。
放送配信装置は各駅に分散していた音源装置を中央に集約し、案内放送を一元管理しています。
※参考文献
田所大毅, 山添巳来(2025). 京阪電鉄における列車運行管理システム更新. 鉄道と電気技術, 36(5), p.48–53.